「青春、ねぇ…」
青年は大きくため息をついた。
“青春”を語るにはまだ若すぎる彼は、椅子に深く座っていた。

「・・・青春ねぇ」
もう一度呟き、やはりため息をついた。

そして青年、折原臨也は黒地にファーのついたジャケットを羽織ってマンションの外に出た。








「あれ?臨也じゃないか!」
「新羅?」
街中にもかかわらず白衣を着た青年が、臨也に声をかけてきた。
色とりどりのファッションに身を包んだ人々が歩く池袋の街に、白衣を着た男は嫌というほど目立っていた。
「お前がこんなところにいるなんて珍しいな」
「臨也こそ。新宿に移っても池袋に来てるんだね。そして相変わらず背徳没倫を続けているようだし」

岸谷新羅は俗にいう闇医者である。
闇医者が情報屋の“背徳没倫”を咎めるなど、傍から見たら滑稽である。
臨也と新羅は腐れ縁ともいえる関係であり、2人を“友達”と呼んだら鼻で笑われるかもしれない。

「あ、そうだ臨也。そろそろどこかに行った方がいいよ?」
「は?」
新羅の眼差しが少し鋭くなる。
それだけで臨也には大体のことがわかった。
「あぁ、でもせっかくだしシズちゃんをからかって帰ろうかな」


彼が“シズちゃん”と呼ぶ人物、平和島静雄。
平和島静雄の特徴を三つあげるとするならば、金色の髪と、バーテンダーの服と…怪力である。
そしてさらに平和島静雄の情報を知りたいのであれば欠かせない事がある。

“静雄と臨也は顔を合わせれば喧嘩という名の『殺し合い』が始まる”

これは静雄を知る第一歩であり、池袋で己の身を守るための一歩でもある。


「あー…臨也?」
「なに?」
「たぶん今は、うん。人生にまだ飽きていないなら行かない方がいいと思うよ」
新羅はおどけて言っているようだが、眼鏡の奥にはまじめな瞳が臨也を見つめている。
「俺がシズちゃんに会うときは大体殺されそうになってると思うんだけどねー」
「僕が言っていることは妄誕無稽なんかじゃないよ?今日に限っては“殺されそう”が“殺された”になりそうだから忠告しているんだ」
―――今日のシズちゃんはよほど機嫌が悪いのか…?
「実は僕、さっき静雄に会ったんだ。いや、仕事の帰りにたまたま会ったんだけど、私に突然高校時代の話をしてきてね。」
「高校時代ねぇ」
新羅は一人称が定まらないまま臨也に忠告を続ける。
「そう。俺も『懐かしいな』と思って聞いてたんだけど・・・静雄、臨也のことを思いだして相当いらついていたから」
「シズちゃんだけでなく、俺にとってもいい思い出なんかじゃないんだけどね」
「それは僕もだろ?俺たちの真っ黒な高校時代なんだから・・・」



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