「あれ、光ちゃんじゃない!」

臨也が光を助けてから数週間後。
光に声をかけたのは新羅だった。
「岸谷くん…」
新羅の横には静雄が無愛想な顔で立っていた。
「平和島くんも、久しぶり…です」
「お、おう」
ぎこちなく挨拶を交わす二人をよそに、新羅はいつもの調子で続ける。
「もう光ちゃん、同い年なんだから敬語なんて使わなくていいのに」
「え、あ、はい」
「あはは、面白いな光ちゃんはー」
新羅が一人話し続ける中、少し離れたところから光の友達の声がした。
「光、早くおいでー」
「あ、すみません。友達が呼んでいるので」
「うん、またね」
新羅だけが挨拶を返し、光は軽く一礼してから走っていった。

「ねぇ静雄…?」
「んあ?」
ぼーっとしていた静雄に新羅が話しかける。
「光ちゃん、かわいいよね」
「…はぁ?」
「ははは。まぁ僕にはセルティがいるからねー」
新羅はにやにやしながら静雄の方を見た。

そしてキレかけている静雄に気づき、空気を読んで黙ることにした。






「じゃあね、光」
「うん!」

静雄たちと別れた後、光は友達と買い物に出かけた。
その友達とも別れ、岐路に着いたその時。
「あーいたいた、こいつだ」

―――まただ。

ここ最近、光は同じ光景を何度も見てきた。
数日に一回というペースで不良のグループに絡まれていたのだ。

―――私、何かしたのかな・・・。

何もしていないのにこれほど囲まれることがあるだろうか?
光は考えてみたが、大人しく過ごしている光がこのような“お友達”と関わりを持つことはまずない。

「また悪そうなお友達と一緒なんだね、光ちゃん♪」
「お、折原くん!」

冷静に頭をまわしていた光の前に、折原臨也が現れた。
光の声には驚きが含まれてはいるが、冷静さも残っていた。
なぜか不良に囲まれる回数だけ、誰かに助けられてきた。
新羅に助けられたこともあったし、警察が通りかかったこともあった。
二度ほど、都市伝説といわれる黒バイクにも助けられた。
目の前にいる少年、折原臨也に助けられるのは、知り合った日を含めて3回目だった。

結論からいえば、このことに対して光は、違和感を抱くべきだったのだ。
しかし彼女の純粋な心は『人間はやはり優しいんだ』と、幸せさえ感じてしまう。

そんなことを光が考えている間に、不良たちは地面にへばりついていた。
「あれー、君、こないだも会ったよね?」
臨也は一人の不良を捕まえて話しかけた。
「なんで光ちゃんばっかり狙ってるわけ」
現れてから笑顔を絶やさなかった臨也が、不良を踏みつけたまま、鋭い眼光放ち質問した。
「へ、へいわじま・・・」
「平和島、って…シズちゃんがどうした?」
「あいつへの、復讐のために…あの、ヤロー、の、彼女を・・・」
「えっ・・・」
声を上げたのは光だった。
「ふーん…」
不機嫌そうに不良を見つめる臨也だったが、その隙に不良は逃げて行った。

「折原…くん?」
「大丈夫?光ちゃん」
「うん…」
おどおどと答える光の顔は真っ赤だった。
「最近よく絡まれてるみたいだけど、原因はさっきあいつが言ってたことみたいだね」
「ち、違うの!」
光は臨也に向かって、強く否定を表した。
「私、平和島くんの…か、彼女なんかじゃないです!」
「んーまぁそうだろうね」
臨也があまりにすんなり自分の発言を信じたので、光は少し驚いた。
「あの喧嘩人形にこんなかわいい彼女がいるなんて俺は信じないよ?」
「いや、そんな…」
優しい笑顔を向け続ける臨也に、光の顔はどんどん赤くなっていた。

対する臨也は―――少しやり過ぎか?―――と考えながら話していた。

「まぁなんであいつらがそんな勘違いをして光ちゃんを狙ってるのかは知らないけど…」
そこまで言って臨也は笑みを消し、心配そうな表情を浮かべた。
「光ちゃんが目をつけられているのは確かなんだから、気を付けなよ?俺のことはいつでも巻き込んでくれていいから」
再び柔らかい表情を取り戻し、光に別れを告げ池袋の街に溶け込んでいった。



―――さぁ。どこまでうまく進むだろうか…。



臨也は、光の前では決して見せない表情を顔に張り付けていた。
おもむろにケータイを出し、先ほど光を囲んでいた不良を含めた多くの人物に、メールを作成し始めた。



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