それは光達が来神高校に入学して1ヶ月ほどたった頃だった。
下校途中、光は壁に押し付けられ、見知らぬ男たちに囲まれていた。
―――あぁ、これが“カツアゲ”なのかな?
恐怖を感じてはいるが、光の頭の中は意外と冷静だった。
「とりあえず、あるだけお金出してみようか〜」
幾つもピアスをつけた品のない顔が彼女に近づけられた。
「早くしろよ!」
さらに、後ろにいた別の男が空き缶を彼女の顔の横に投げつけた。
この行動が彼らにとって最悪の事態を引き起こした。
投げられた空き缶はコンクリートの壁に当たり、思わぬ方向に跳ね返った。
そして道を歩いていた人に当たり、少しだけ缶に残っていた内容物がその人の服を汚した。
しかも不幸にも―――光にとっては幸運なことに、缶をぶつけられた人物というのは平和島静雄だった。
「あぁ?なんだお前ら」
平和静雄の眼に、空き缶を投げてきた男たちと来神の制服を着た少女が映った。
少しの間を経て静雄は状況を理解した。
「てめぇこそ何なんだー!」
叫びながら静雄に掴みかかろうとする一人の男。
静雄はその男を片手で持ち上げ、別の男たちに投げつけた。
光は何が起きているのか理解できず戸惑っていた。
―――とりあえず助かった…のかな?
光がおどおどしている間に、立つ元気のある不良は一人もいなくなっていた。
「あー、えっと…大丈夫か?」
ぶっきらぼうに光に話しかける静雄。
そんな静雄を、光は怯えた目で見上げていた。
頭では助けられたお礼を言わなければいけないと思ったのだが、今しがた見た信じ難い静雄の力に言葉が出なくなっていた。
懸命に口を動かそうとはしたが声は出ない。
「いや、暴力はよくない、よな。えーっと…怖がらせちまったか」
頭に手を置きながら、しどろもどろに静雄は話しかけ続けた。
「俺も制御ができればいいんだが…。あぁまぁ、あんたが大丈夫だったならそれでいいんだけど」
そこまで言って静雄は恥ずかしさに耐えられず、その場を去ろうとした。
「あ、あの!ありがとうございました!!」
「いや、いいよ」
それだけ言って、本当にどこかへ歩いて行った。
「今の人って…平和島くん、だよね?」
光の頭はまだ混乱していた。
そこにまた別の人物が現れた。
「あれ、また何かやらかしたの?」
来神の制服を着た眼鏡の男だった。
「君も来神の子?今ここに平和島静雄っていう馬鹿力の男、居た?」
「あ、はい。私…彼に助けてもらったんです」
「それでこんなに人がのびてるんだねー。あぁ、僕は岸谷新羅だよ、よろしく」
新羅は光に静雄を追ってここまで来たようだったが、状況を瞬時に推測し光に声をかけた。
「君は大丈夫だった?あの化け物じみた力に巻き込まれたりしてない?」
「はい、大丈夫です」
「いつまでたっても制御することを覚えないんだよね、彼の力は。それでいて静雄は暴力が嫌いなんだ…」
新羅は少し声を低くし、心配そうに語った。
「俺があまり勝手に話すのはよくないと思うんだけどね。でも力任せに事を解決するのが、彼の本当の意思ではないことだけは覚えておいてあげてね」
「…はい」
この日が光と優しい怪物との出会いとなった。
そしてこの出来事が光の恋の始まりだった。
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